HOME

岐路に立っている日本の知的財産の世界
2009/04/13 中岡浩



 モラル会の皆様、お元気でいらっしゃいますか。桜が咲き、また新しい年度が始まりました。大変にご無沙汰して申し訳ございません。近況をご報告させていただきます。

 現在、知的財産に関するフリーの取材記者および編集者をしております。媒体は「フジサンケイビジネスアイ」という日刊紙、「FujiSankei Business i.知財情報&戦略システム」という不定期発行の雑誌、「インテレクタスアイ」というWEB、「特許流通ニュースメール」というメールマガジンです。

 知的財産の世界は、いわゆる大企業の特許部、法務部等セクションの世界からR&D、経営、企画、業務部門等へと広がるだけでなく、中堅・中小企業および大学、研究機関へと広がりつつあります。知識やスキルは当然、大企業の特許部、法務部等にはかなわないのですが、逆に裾野が広がっていくことで、それぞれに合った新しいやり方やより戦略的な手法が模索されています。特許戦略といった言い方よりも知財戦略とういう言い方が多く使われるようになっています。

 私は旧来型の特許戦略を志向する特許村よりも、各方面で新しいことを考え実行している知財村に軸足を置いて取材活動をしています。例えば、知財のライセンスビジネスや知財の評価ビジネスです。ライセンスビジネスは特許村において古くからあるのですが、これは自社で研究開発した技術を特許化し、その利用を他の企業にも許諾するといったものです。しかし現在では、研究開発をせず特許の買収を進め、これでポートフォリオを組み、ひとつのパッケージにしてライセンスあるいは売却したり、特許権侵害訴訟のネタにしたりする新業態が米国で生まれています。前者はアグリゲータ−、後者はパテントトロールと呼ばれ、あまり評判はよくありませんが、特許権の流動化を進めることが可能になるため、特許流通市場が生まれてきます。米国ではすでにグローバルに特許オークションを展開する企業もできました。

 もちろん、特許を扱うからには、そのデューデリジェンスを行うことが必要です。そこには知財の評価ビジネスが一体となって生まれてきます。評価は技術的な面だけでなく、事業化可能性の評価もあります。技術の将来キャッシュフローを予測できるなら、ここに金融機関やファンドがリスクをとって投融資機能を提供することができるようになります。実はこのあたりがホットトピックになっています。

 どういうことかというと、生産コストの低い中進国の工業化が進むにつれ、先進国は新たな産業技術を開発して次の市場を見つけなくてはいけなくなっているのですが、ここには莫大な資金が必要になります。つまり資金の出し手は自ら新技術をデューデリジェンスして投融資の決断をしなくてはいけないということです。そしてこの評価・決断力が先進各国の今後の地位を決めることになります。その新しい産業の技術は権利として独占されるからです。問題は、こういったことに日本人は産学官、金融機関とも非常に苦手だということです。

欧米人はその点、“権利のための闘争”ではありませんが、恐ろしいほどの粘着力と行動力があります。どんどん新しい権利カテゴリーを作って独占を狙います。最近、音や色、匂いについての商標権が認められるようになりつつありますが、この論議は2003年時点で始まっていました。日本人なら非常識と一笑にふすようなことを彼らは真面目に取り組みます。実はバイオ技術も日本は惨憺たる状況にあります。ES細胞の特許権化は海外でどんどん進められていますが、日本では古い法解釈が邪魔をしています。素晴らしい頭脳をもった科学者はいるかもしれませんが、権利化すなわち産業化という点においては、決着がついてしまったといわれています。

 グローバルエナジーという風力発電用の羽を開発しているベンチャーがありますが、非常に画期的な新理論を打ち立てていますが、日本の学会はこれを認めませんでした。もちろん、投融資もありません。同社の技術は今、欧米、中国、インド、中東などから引き合いが殺到し始めています。つまり、外国の会社になってしまう可能性が高いのです。ここで言えることは前例のないことを独自に評価する能力が必要になっているということです。

ではどうやってやるのか? 少し前なら著名な研究者たちにメキキしてもらうという手法がとられていたと思いますが、現在ではこのようなアナログ手法では追いつかないようになっています。バイオ分野では世界で年間に10万本以上の論文、特許出願があります。これらを読破して適切にメキキできるような人物がいるはずもありません。そこでは何10万、何100万の技術データを読み込んで整理するためのコンピュータによる分析技術の開発が不可欠になります。もちろん、このような新手法を導入することにも日本人はためらいます。

こういったことを取材している毎日です。日本は今、大きな岐路に立っているような気がします。日本が豊かさを覚えたバブル期のころから誰もが使うようになった「ま、いいか」という“金持ち争わず”的な余裕のスタンスがこの知財の世界ではまったく通用しないのです。

すいません、長々書いてしまいました。今後とも引き続きましてよろしくお願いいたします。   

HOME TOP
Copyright (c) Moralkai all right reserved.