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「創業と守成 後藤先生の講演「日本の老舗・世界の老舗」に思う」

2009/04/28 彩の国老舗企業発掘探検隊
隊長 並木 和夫


はじめに

 425日、後藤俊夫先生から非常に貴重な講演を受けました。
当日欠席の方でもパソコン操作に詳しい方は、既にモラル会のHPから先生の講義内容をご覧になっていることでしょう。資料収集にさぞや大変な努力をされたと感心する極めて意欲的な講義でした。

 私共は皆、定年。職場で家庭で何らかの創業(ある分野の事業・研究を極めた、子供を社会人にした、自宅を持った等々)を成し、これから老後、守成に回る時期に差し掛かっています。

『創業(草創)と守成、いずれが難しいのか?』

 唐2代目の太宗(李世民)が腹心の部下二人に尋ねた有名な言葉。結論は、『どちらも難しいが、創業成った今や守成に意を用いよう』(貞観政要)となります。
 しかし、後継者や後輩に語る時には、如何でしょうか。創業と守成を共に論ずる必要がありましょう。世間に目を転じると、どの分野においても、この問題がクローズアップされ、避けて通れません。創業と守成を学ぶ格好の事例が、老舗に見られます。
 少なくとも、私はこの老舗の創業と守成に多くの関心を持っています。


老舗(家訓・辞世)の研究
 このため、身近なところとして、戦国時代から今日に至る大名、商家、企業(日野富子から稲盛和夫に至る)の創業と守成のあり方を暇に任せて極力見てきました。個人的意見・想像を加えて各ビジネス書に連載・紹介もしてきました。戦国期の近江商人(浅井長政、石田三成治下)、これから派生した松坂商人(藤堂高虎治下)の系譜は今日まで延々と継続されています。三越、松坂屋、ワコール、メンソレータム、、、、、の創業の原動力、守成の持続力に学ぶことは大きいと思います。
 極めつけは、越後屋です。浅井の武将だった三井越後守は、信長による浅井家滅亡後近江を捨て伊勢に移住し、創業します。近江は秀吉、三成の治世が一時期有ったとは思いますが、信長の商圏独占に異論があったのでしょう。伊勢においての三井母子の倹約精神は大変なものです。ここで『いわゆる資本の本源的蓄積』を成し、京、江戸に打って出ます。

 埼玉の老舗の創業の原点も、何と近江商人にありました。近江商人が全国行脚の途中、武蔵野国に立寄り、土着して酒造(力士の釜屋)、漬物(奈良漬の酒井)等数々の事業を創業しています。 天下取りで大いに世話になった茶屋四郎次郎、千利休、確かに彼らは事業経営者以外の組織家、知識人であってその影響力を無視出来ないものでした。故に天下収まるや士農工商制度にて彼らの活躍を封じ込めた家康には、それなりの政策、戦略があったとしか思えません。

 こうして、江戸初期、商人道は忌み嫌われました。しかし、江戸中期から商人道が復活します。社会の底辺層にあり利に聡い集団と蔑まれても、石田梅岩の元、商人の事業哲学・精神を拠り所に大いに成長して行きます。ついには、その後継者の資金力を背景に幕府が崩壊し、近代に突入、一部は財閥にまでなり国家、政治を左右するにまでなった老舗も出ました。
 彼ら商人の創業と守成は、井原西鶴先生の『日本永代蔵』(大福新長者教)の30ストーリーにつぶさに見られます。その勝組が、鴻池(三和)、越後屋(三井)、住友です。
 彼らの成功は、家訓に残る通り、『義利合一』の精神でした。『義利合一』は後に、澁澤栄一先生が大成する思想ですが、住友初代は『義を争い、利を争わず』と適正利益の確保を経営の根底にしています。
 社会的正義を根底に持つ経営だからこそ、他国においても地域に歓迎されて商圏を拡大出来たものと思われます。

 先生の分析では、長寿の要因は、同族の団結、生活密着産業、長子相続、女性の貢献、長寿の決意、養子の導入、ビジネス優先、社会・顧客重視、摩擦対応、計画・文書化、ガバナンスシステムにあるとのことです。特に、
@家業を継続・承継する意思(中国、朝鮮には儒教の影響でありません)、
A江戸時代の持続的成長経済(中後半かなり低成長でしたが、人口増加、武家の高い消費性向に支えられたものでしょう)、
B各種マネジメントシステム、
  a家訓・家則の存在
 b従業員人事制度、例えば身元引受採用、丁稚・手代・番頭、そして在所登りという昇格
  システム(
35歳位で一端は結婚・解雇、優秀な人材は血族と婚姻して支配人登用)
 c不心得経営者の押し込め隠居制度(放蕩等杜撰なオーナーは一族・番頭が意見し、幽閉し
  経営陣から排除)

等が作用したとのことです。
 かくて、老舗が誕生しました。今日その老舗企業とわずかなものですが取引出来るわが身に感動する、老舗のお饅頭、酒を楽しむ毎日、これが私の老舗研究の原点です。


老舗巡り(産業観光の勧め)
 わが日本は、世界的には老舗オリンピック(世界57国、7,197社)の金メダル国で3,125社です。銀のドイツ1,546社をはるかに凌駕しています。先生の調査では、わが国老舗(100年長寿企業)3,125社の多くは酒造447、旅館425、和菓子304、工芸・仏具252、料亭・割烹185、醸造129、衣服・繊維126、薬局・製薬96、機械・金属・鋳造72、建築・工事53、石材32の順とのことです。最古はご存知の金剛組(創業578年。奈良時代)ですが、つい最近、高松建設に買収されてしまいました。
 これら老舗を探訪する旅に出かけましょう。
 定年シニア、時間は十二分にあります。最愛の妻同伴で、地域の老舗、工場・店舗、史跡・資料館を巡り、地元老舗の有名な料理を味わい、老舗の酒を嗜み、老舗和菓子を楽しむ。幸いなるかなふるさと老舗旅。
 『古書読むべし、古酒飲むべし、旧友親しむべし』(並木家の家訓の一条です)


自分だけ楽しんではもったいない。
 ここに、シニアコンダクターとして、同世代を案内してみましょう。ボランティアで小学生・中高生・大学生、はたまた温故知新、これから創業を目指す若者に老舗を案内しましょう。
 このビジネスモデルは至って簡単。しかし、社会貢献ですので、収入・経費相応のビジネス、利益が出るものではありませんにでご留意下さい。

 ふるさとの商工会議所、観光協会等で老舗の所在を調べ、自分自身で老舗を訪問し、記録(創業の歴史、創業に至る苦心談、売れ筋商品、暖簾・社名の云われ、店舗・工場・自慢商品の写真、経営者の写真、地図、パンフレット)を取り、これを整理分類します。問題は、訪問に応じてもらえるかどうかです。老舗だけに、1現の者にそう容易く門戸を開いて頂けないのが現実です。後藤先生の訪問実績は大変な努力があってのことに違いありません。
NPO法人化なり運動が広く周知されれば良いのですが、それまでは私利での運動でないことを力説する必要があります。

 そして、観光ルート化するというものです。
 貴方にもできます。一緒に創業し、ネットワークを構築していきましょう。
   

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