企業経営者にとって自社の株式が証券取引所で売買されるようになることは、一つのステータスであり、目標でもある(もっとも中には一族で経営することを望み、非公開を続ける企業もある)。このように株式を証券取引所で売買されるようになることを、新規株式公開といい証券業界等ではIPO(Initial Public Offering)と呼んでいる。
では、自社の株式を証券取引所で売買されるようにするためには、どのようにすればよいのかについて本稿で簡単に説明していく。
先ず、自社の株式を証券取引所で売買できるようにするという、社長の決断が重要となる。これは社長1人が決断しても、他の経営者や従業員が正面から反対をしなくても気乗りしないという雰囲気が充満していれば決して成功しない。このため社長の決断を役員・従業員が理解し支えていくという目標の共有が重要となる。小生の経験のなかでも役員・従業員の協力が得られず、途中で挫折した企業があった。
株式を公開するためには、クリアーしなければならない課題が数多くある。以下に重要な項目とその内容を簡単にふれておく(これらは項目毎に説明するだけでもかなりの紙面を必要とする)。
1 上場準備の進め方の基本方針
まずは社内に上場準備プロジェクトチームを設立(メンバーの中に少なくともIPOに知識のある人材を社内外問わず探す)し、主幹事証券会社と監査法人の選定(準備期間中の専門的な業務指導はもとより株式公開後も関係を有することになるので慎重に選定する)、公開する市場、時期(通常は2〜3年かかる)、社内の経理業務や公開業務を進める部署(迅速な経理や利益計画、予算管理の部署、内部監査部署、社外対応部署等)の設置・育成計画などを決める。
2 経営管理体制と順法精神の確立(コーポレートガバナンス)、情報開示(ディスクローシャー)
ここに書かれた社内体制の確立は、IPOを目指す企業にとっては最も厳しい作業となる。
まずは、同族的企業体質(マイカンパニー)からパブリックカンパニー(社会的企業)
に変革しなければならない。すなわち組織的・計画的な経営を実践し、事業の継続性と収益性の確保をどのようにして確保していくか、さらに敏速な情報開示体制を構築していくことが必要となる。経営者にとっては大変大きな意識変革を求められるものであり、かなりの覚悟が必要となる。公開企業として非常に重要な作業となるのは経営計画(事業計画)、
予算編成、月次決算と予算と実績の差異分析と予算の修正がある。さらにこれまでおそらく適当に開会されていた取締役会の定例化と議事録の作成。さらに順法精神の確立のため、監査役会の機能強化や社内監査体制の確立等がある。
3 上場のための各種書類の作成
上場するための審査書類として必要となる主なものは、新規上場申請のための有価証券報告書(Tの部)と新規上場申請のための有価証券報告書(Uの部)がある。Tの部の多くの部分は公開後も必要となる決算報告書とほぼ同じだが、Uの部は数百ページからなる企業の全容を取引所や主幹事証券会社等に知らせるためのもので、多くの企業にとっては大変な作業量となる。公開後も引き続き必要となる主なものは事業計画書や決算書類等となる。
以上は特に必要と思われるものについて説明したが、このほかにも企業経営を継続していくのに必要な書類を整備し、常に情報を開示できるようにしておかなければならない。
このように、株式を新規に公開するということは企業にとって大変な労力・時間・費用が必要となる。それでも株式を公開することのメッリトとして、会社にとっては資金調達力の増大と多様化がある。通常、企業は銀行から設備資金や運転資金を担保を差し出して借りることになる。公開企業はまず新規上場時に新規の株式を発行し、多くの新株主に株式を購入してもらう(公募増資)ことで資金を調達する。しかもこの資金は返済義務がなく(利益が出れば株主に配当する必要がある)勿論担保もいらない。さらに企業の知名度向上による業容の拡大や優秀な人材の確保、経営体質の強化等がある。従業員にとっても従業員持株会による資産形成、企業の知名度向上によるモラルアップや社会的信用の増加等がある。
勿論デメリットもある。M&Aや株式の投機的取引に対する危険性、株式事務の増大、企業内容の開示義務等が挙げられる。
新規に株式公開を目指す企業が増加することは、日本経済の活力を示す一つのバロメーターといえる。しかしながらIPO社数の推移をみると、2000年(暦年ベース以下同じ)の204社を頂点に減少傾向を辿り2009年には19社と、ピークの10分の1以下に激減した。もっともこの前年の2008年9月のリーマン・ショックによる急激な株価下落と景気悪化の影響が大きいこともあるが、日本経済の長期不況の影響もある。2010年からはさすがに回復傾向にあるが2010年22社、2011年37社、2012年46社と依然として低水準となっている。ちなみに2013年も50社程度と予想されている。
以上
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